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研究活動

成人を対象にしたWebベースによるインターネット学習講座の試み

―パソコン知識と生涯学習意識の変化について―
A test of a internet-lecture on web basis for adults
― Change of PC-knowledge and lifelong learning consciousness ―

國枝俊弘 Toshihiro KUNIEDA((株)シタシオンジャパン CITATION JAPAN CO.,LTD)
水越敏行 Toshiyuki MIZUKOSHI(関西大学総合情報学部 Faculty of Informatics Kansai University)
中島 徹 Toru NAKAJIMA((株)学習研究社 GAKKEN CO.,LTD)

【概要】

情報弱者のレベルの引き上げ及び生涯学習意識の向上を目的とした、成人向けのWebベースによるインターネット学習システムを開発し、その効果を検証した。被験者は35歳から76歳までの男女118名。結果、インターネットに関する知識や今後の利用意識の向上が認められた。加えて、新規に作成した”生涯学習意識”に関する尺度による受講前・受講後の比較では、一部の受講者に生涯学習に対する意識の向上が認められた。

【キーワード】

インターネット学習講座,生涯学習意識,地域学習,成人,情報活用能

1.はじめに

近年の情報化の進展に伴い、社会・公共分野において、コンピュータを抵抗なく活用できる素地を修得するための情報リテラシー教育そのものの重要性が認識され、近く学校教育でも本格的な実施が見込まれている。しかし、一般社会人、特に定年退職した高年齢者や、専業主婦、またコンピュータに直接関わらない職場にいる者などは、自らの情報リテラシー能力を高めていくことにおいて不利な環境にいるといえる。本研究は、上記のような「情報弱者」を主な利用対象者として想定したインターネット学習カリキュラムを作成し、その有効性を検証、及びインターネット学習カリキュラムを受講した学習者の受講前・受講後の生涯学習に関する意識の差の検証を試みた。さらに本研究では、実際に学習カリキュラムを実施する本実験の前に、カリキュラム構成の整合性の検証とともに、評価指標となる生涯学習に関する評価項目を作成するための前調査を行った。なお、本学習カリキュラムは、ブラウザ編(初心者、初級、中級、上級)・電子メール編(初心者、初級、中級、上級)・ホームページ作成編(中級、上級)の3つのテーマからなり、10のユニットで構成されいる。

2.前調査

2-1.目的および仮説

学習カリキュラム構成の整合性を検証する。学習カリキュラム構成や評価方法が妥当な場合、中級や上級といったよりレベルの高いカリキュラムに対応する設問は、初心者・初級に対応するそれもより高度であり、それは設問の正答率に反映される。また、回答者のパソコンスキルの程度、知識の高さを反映すると考えられるインターネットや電子メール利用の有無によって設問の正答率に差が生じる。さらに本調査は以上の仮説検証に加え、生涯学習に関する意識を評価するために有効な設問を、過去の研究を参考に作成した設問群から抽出することを目的とする。

2-2.方法

【調査期間】

平成11年5月中旬から6月中旬

【調査方法】

今回作成されたインターネット学習カリキュラムの主な対象者として想定している35歳以上の男女135名に対し、学習カリキュラム構成に対応した、パソコン知識に関する問題、生涯学習に関わると思われる態度・意識などに関する設問で構成された質問紙法にて行った。

2-3.結果と考察

【学習カリキュラムの構成について】

本調査の設問は学習内容をふまえ、各ユニットごとに5問ずつ作成した。ブラウザテーマ、電子メールテーマ、ホームページ作成テーマの各コースを見ると、電子メール上級を除いて、仮説どおり初心者、初級、中級、上級の順に正答率が低い結果とくなった。ただし、各コースごとに”初心者 “”初級””中級””上級”の各ユニットごとの正答率の差の検定を行ったところ、ブラウザテーマでは初級~中級に、電子メールテーマは初級~中級~上級間において統計的に有意な結果は得られなかった。(図1参照)

図1 ブラウザテーマの正答率

この結果は、初級、中級がかならずしも学習内容のレベルに応じていないことを意味する。そこで、カリキュラムの見直しをするとともに、学習の進め方として、中級を受ける場合、必ず初級も受けることを学習者に義務づけることとした。パソコン利用経験の有無で比較した場合、ブラウザテーマ、電子メールテーマの両方について、利用経験者の群が未経験者にそれを大きく上回っており、全ユニット間で有意差が見られた。この結果は、これら設問がパソコン知識の程度を評価する上で有効であることを示唆している

【生涯学習に関する意識について】

今回使用した評価項目は、”個人的開発””社会的開発”を測定する目的で作成されている。これら設問の妥当性、及び設問間の共通性を検証するために因子分析を行った。
 さらに、数量化3類を行った後、算出された数値に対しクラスタ分類を行った。その結果、因子分析の結果と類似した結果となり、したがって各因子とクラスタは、以下のように対応すると思われる。(表1、図2参照)
 因子I : クラスタB
 因子II・因子III : クラスタC
 因子IV : クラスタA・クラスタD
以上の結果を踏まえ、生涯学習に関する意識・態度を評価するために、以下の3因子、計12設問を生涯学習意識評価尺度とした。

因子I:自己成長への意欲
必要に迫られてではなく自発的な学習意欲や態度(該当設問:5,6,7,8,9,10,14)
因子II:社会に対する意欲・関心
社会や他者に対して積極的に関わりを持とうとする態度(該当設問:21,22)
因子III:内省的・内向的姿勢
他者と関わろうとせず、内に閉じこもる消極的な態度(該当設問:18,19)

表1 因子分析結果
図2 数量化3類および、クラスタ分析によるマップ

3.本実験

3-1.目的および仮説

学習カリキュラムを実際に受講した学習者のインターネットに関する知識が、受講前と比較して向上することを検証した。加えて、前調査で作成された生涯学習意識評価尺度を用いて、受講前・受講後の意識の変化を検証した。

3-2.方法

【調査期間】

平成11年9月下旬から12月下旬

【被験者(学習者)】

被験者は、区の広報誌を利用し実験参加を募った35歳以上の男女118名

【実験場所】

1)世田谷区立教育センター内、コンピュータ研修室
2)世田谷区文化生活情報センター内、情報プラザ
 以上2個所。

3-3.結果と考察

インターネットに関する知識の変化について

全てのユニットにおいて、受講前と受講後では知識の向上が見られ、統計的にも有意な結果となった。一方、年齢・性別おける差は特に見られなかった。

生涯学習に対する意識の変化について

前調査によって抽出された生涯学習意識における3因子を、受講前の回答と受講後のそれを比較したところ、学習者全体では差は見られなかった。原因として、被験者が受講前の段階で、一般的な基準(前調査の結果)よりも生涯学習に対する意識が高かったことが考えられる。(図3参照)

図3 生涯学習意識 前調査と本実験の比較

加えて、被験者のうち、比較的、生涯学習意識が低い推測される自己成長への意欲因子低群(因子得点下位1/3)、内省的・内向的姿勢因子高群(因子得点上位1/3)に限定した場合、受講前と比較して生涯学習意識の向上が見られた。(図4参照)

図4 生涯学習意識低群の変化

4.おわりに

本研究は、主に成人を対象として作成されたインターネット学習カリキュラムの有効性をパソコン知識向上、および生涯学習意識の変化という2点から検証した。その結果、カリキュラムを受講した学習者は、受講前と比較して、明らかにパソコンに関する知識が向上し、本学習カリキュラムの有効性が示唆される結果となった。加えて、一部の学習者に生涯学習に関する意識の向上が見られたことから、本学習カリキュラムが単に知識の向上だけではなく、生涯学習意識にも影響を及ぼすことを示唆する結果となった。

謝辞

本研究は情報処理事業協会(IPA)の「教育の情報化推進事業」の一環として行われた「地域住民情報活用能力育成教育システムの開発と世田谷での実験」の成果の一部を報告するものである。発表の機会を与えてくださった情報処理事業協会と、実験会場の提供をはじめ、多岐にわたる協力、支援をいただきました世田谷区に深く感謝いたします。

参考文献

赤尾勝巳・山本慶裕 編著,(1998)学びのデザイン 生涯学習方法論,玉川大学出版部
水越敏行(1998)マルチメディアと成人を対象とした情報教育の在り方に関する調査研究,財団法人 日本放送教育協会

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